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松江地方裁判所 昭和52年(行ウ)1号 判決 1978年3月29日

原告

合資会社岸田総業

右代表者

岸田隆

右訴訟代理人

梅村義治

被告

島根県益田総務事務所長

小池隆夫

右指定代理人

落合良夫

外五名

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実《省略》

理由

一原告の請求原因1の事実は、当事者間に争いがない。

二原告が本件建物を取得した経緯について判断する。

1  被告は、原告が昭和五一年六月二二日本件建物を贈与によつて取得した旨主張し、<証拠>には、右主張にそう趣旨の記載があるが、右記載が実体と符合することを認めるに足りる証拠がなく、<証拠判断略>。

2(一)  <証拠>を総合すれば、次の事実が認められ<る>。<証拠判断略>。

原告は、昭和四八年一月六日衣料品の販売、旅館の経営及び飲食の提供等を目的として設立され、設立以来、衣料品の小売業、旅館業及び食堂の経営をしてきた合資会社で、その社員は設立当初から昭和四八年末までは岸田隆(無限責任社員、出資金二六〇万円)、岸田悦子(有限責任社員、出資金四〇万円)の二名であつた。

他方、訴外会社は昭和四八年二月三日、宿泊・休憩及び飲食の提供等を目的として資本金一五〇万円(出資一口の金額一、〇〇〇円)で設立された有限会社であり、設立当初から昭和四八年一二月二〇日に解散するまでの間、その社員は前記岸田隆(出資口数一、〇〇〇口)、訴外椿洋之助(出資口数五〇〇口)の二名であり、右岸田隆が代表取締役、右椿洋之助が取締役に就任していた。

訴外会社は昭和四八年七月、原告の営む旅館に隣接して本件建物を建築して同月二五日から営業を開始したが、金融機関からの多額の借財をかかえていたこと等のため、経営は当初から不振を極め、同年一二月の決算期においては三六八万円余の欠損を計上したのみならず、次期以降も経営不振が改繕される見込みがなく、このままの状態で推移すれば、早晩倒産することは必至であつたので、原告の代表者でもあつた訴外会社の代表取締役岸田隆は、その打開策として、訴外会社を原告に吸収合併することによつて事態を収拾することとした。しかし、有限会社たる訴外会社と合資会社たる原告とは、訴外会社を株式会社に組織変更することなくしては、商法もしくは有限会社法の合併に関する規定に基づいて合併することはできないことから、事実上これと同一の効果をあげることを企図し、訴外会社の前記欠損は岸田隆の増資引当金及び出資金の一部をもつて補填してこれを消滅させ、しかるのち、訴外会社の一切の資産及び負債からなる営業全部を原告に譲渡して同社は解散するとともに、岸田隆の右欠損補填済後の残出資金及び椿洋之助の出資金はこれをそのまま原告に対する出資金として取扱うこととした。

そこで、まず昭和四八年一二月二〇日訴外会社の臨時社員総会において、訴外会社は同日限りで解散し、かつ昭和四九年一月一日をもつて、前記のようにして欠損を処理した後の営業の全部を原告に譲渡するとともに、原告の承認を条件に岸田隆の前記残出資金九〇万円及び椿洋之助の出資金五〇万円を原告に対する出資額とする旨を決議し、ついで、同月二五日原告の臨時社員総会において、昭和四九年一月一日を期して、訴外会社の営業全部を譲受け、かつ訴外会社に対する岸田隆の前記残出資金九〇万円と椿洋之助の前記出資金五〇万円を原告に対する出資として取扱うことによつて訴外会社の社員たる右両名を原告の社員として迎え入れるとともに(但し、岸田隆については従前より原告の社員であつたので、前記残出資金九〇万円に相当する出資の増加となる)、原告の資本金の額を増額する等所定の決議をなした。その結果、訴外会社は、昭和四八年一二月二〇日解散し(但し、解散登記は「昭和四九年五月三一日社員総会の決議により解散」を原因として同年六月二〇日になされた。)、他方、原告は、昭和四九年一月一日、営業を構成する全部の権利義務の移転を受け、その資本金は六〇〇万円、社員は岸田隆(無限責任社員、出資金額三五〇万円)、椿洋之助(有限責任社員、出資金二〇〇万円)、岸田悦子(有限責任社員、出資金額九〇万円、岸田一二三(有限責任社員、出資金額一〇万円)の四名となつた。

原告は、以上の経緯によつて、昭和四九年一月一日本件建物の所有権を取得したが、本件建物の所有権移転登記については、それに伴つて不動産取得税が賦課されることを虞れ、その所有権移転登記手続をすることなく放置していたところ、本件建物を担保として訴外会社に対して貸付をしていた金融機関から、登記簿の記載を事実の権利関係に早急に一致させるよう強く要求されたため、昭和五一年六月二三日に至つて、同月二二日贈与を原因とする訴外会社から原告に対する所有権移転登記手続を経由した。

(二)  以上の認定事実によれば、原告と訴外会社とは、倒産の危機にあつた訴外会社を原告が吸収合併することによつて訴外会社の倒産を回避しようとしたが、原告が合資会社、訴外会社が有限会社であつたことから、組織変更の手続を経ることなくしては商法もしくは有限会社法の規定に基づく合併をなしえなかつたため、これに代えてこれと事実上同一の結果を達成するために、昭和四八年一二月二〇日訴外会社を解散し、同月二五日原告が訴外会社の営業を全部を譲受けるとともに、その社員を収容することを決め、本件建物の所有権は右のような営業の全部の譲渡の一環として、昭和四九年一月一日頃訴外会社から原告に移転されたものであることが認められる。

三ところで、法第七三条の二第一項にいう「不動産の取得」とは、所有権移転の形式による不動産の取得のすべての場合を含むと解すべきであるから、前叙の如き経緯による原告の本件建物の所有権の取得が右「不動産の取得」に該当すること明らかであつて、法の定める非課税規定に該当する場合を除いては、不動産取得税の賄課徴収を免れないところである。

四原告は、本件建物の所有権の取得は、法第七三条の七第二号にいう「法人の合併」による不動産の取得に該当し、非課税である旨主張するので、判断する。

1 「法人の合併」については、商法、有限会社法、私立学校法等各種の法人の設立を根拠づける法律中において、合併に関する規定が設けられていることが多く(商法第五六条、第九八条ないし第一〇二条、第四〇八条ないし第四一六条、有限会社法第五九条ないし第六三条、私立学校法第五二条ないし第五七条参照)、私法上では、これらの法規を根拠として「法人の合併」の概念としては通常これらの法定の手続に従つてなされる法人間の行為であつて、被合併法人が解散し、その財産が清算手続を経ることなく包括的に合併法人に承継されると同時にその社員が被合併法人の社員となる効果を伴うもの(以下、これを法律上の合併という)を意味するものと理解され、かつ、そのようなものとして用いられていることは確かである。しかし、商法等は、二個以上の会社等の法人が契約により合同するという経済的要請を前提として、法人の合併が合併に利害を有する株主や債権者等の保護を図りつつ適正に行われるように規整することを目的とするものであるから、この規整をみたす合併のみが商法等において合併として取扱われるのに対し、法第七三条の七第二号において、「法人の合併」による不動産の取得を非課税とした趣旨をみた場合、被合併法人が解散と同時に消滅し、合併法人が被合併法人の一切の権利義務を承継することによつて、その人格が合併法人の人格に承継、包摂され、もつて両人格の合一を来たすことに着目し、そこでは、不動産の所有権の移転があつても、形式的なものであつて、その所有権の主体は実質的には変更がなく、そこに担税力をみい出すような不動産の移転があつたとして不動産取得税を課することが必ずしも適当でないという点にあるといえる。してみると、前記商法等の私法及び法第七三条の第七第二号において、「法人の合併」という同一の用語を用いているのであるが、それぞれこれを規制する法的原理ないしは法的趣旨・目的を異にするのであるから、法第七三条の七第二号にいう「法人の合併」は、前記商法等の私法にいう会社等の法人の合併と同一の意味内容のものと解する必要はなく、法第七三条の七第二号の規定の枠内で独自に解釈するのが相当である。

そうだとすれば、非課税規定の解釈一般について狭義性、厳格性が要請されるとしても、なお、法第七三条の七第二号の「法人の合併」には、右にみた同規定の実質的理由からみて、商法等に定められた法律上の合併に限らず、営業譲渡の場合でも、譲渡会社が全財産(積極、消極財産)を譲渡すると同時に解散し、直ちに清算手続を経て消滅するとともに、譲受会社が解散会社の社員及び全財産を譲受けるとともに、新株を発行して解散会社の株主を参加させるが如き、商法等の規定では合併とは認められないところの企業合同ないし事実上の合併も右にいう「法人の合併」のうちに含まれるものと解するのが相当である。このことは、法第七三条の七第二号の二が特に会社更正法所定の不動産の取得に限定して非課税と規定しているのに対し、「法人の合併」の場合には、このような限定規定がないこととも符合するのである。右のように法第七三条の七第二号の「法人の合併」を解することは、右にいう「法人の合併」の解釈として、同条同号の趣旨自体から法律上の合併のほかに、その実質がこれと同一とみうる場合を含めうるとするにとどまり、法第七三条の七各号に掲げる非課税規定憩みだりに類推拡張して適用するものでもないし、又、不動産取得税が流通税として不動産の移転の事実自体に着目して課せられる趣旨を否定するものでもなく、更に、不動産取得税をあたかも収得税の如く解してそこに実質課税の原則をもちこんで適用したことにもならないというべきである。なお、法第九条の三は、納税義務の承継に関する規定であつて、法第七三条の七とはその趣旨、目的を異にし、しかも、法第一二条の二は人格のない社団等の納税義務の承継等の関係で、法人と人格のない社団等の「合併」及び人格のない社団等相互の「合併」が存することを前提として、「法人が人格のない社団等の財産に属する権利義務を包括して承継する場合(第九条の三の規定の適用がある場合を除く)」と規定して、法自体、「合併」なる用語を必ずしも法律上の合併に限定して用いているものでもないことが窺われることからして、法第九条の三の規定は、法第七三条の七第二号の「法人の合併」を法律上の合併のほかに、その実質がこれと同一の場合をも含むものと解する妨げとなるものではない。又、法第七三条の七第二号の規定する「法人の分割」については「政令で定める分割」に限定しているが、このことが、同条同号の「法人の合併」の解釈について、格別の意図をもつものということはできない。

2 以上の観点に立つて本件をみるに、原告による本件建物の所有権の取得は、営業の全部譲渡の一環としてなされたものであつて、訴外会社が昭和四八年一二月二〇日に解散し、原告が昭和四九年一月一日頃訴外会社の社員を収容し、かつ同会社から営業の全部を譲受けたことは前記二で認定したとおりである。しかし、<証拠>によれば、原告と訴外会社間の債権債務が決済されたのが昭和五〇年一月一日頃であること、訴外会社の負担していた約四、〇〇〇万円の債務について、原告による免責的債務引受が債権者との関係でも承継されたのは昭和五一年五月二八日頃であること、訴外会社は昭和五二年四月二二日以前においては清算手続結了の登記が行われていないことが窺われるのであつて、これらの事実からすれば、訴外会社は営業譲渡後、一年以上も清算手続が結了せず解散会社として存続していたものと認められる。そうだとすれば、原告と訴外会社とが事実上の吸収合併をするという趣旨のもとに、訴外会社が営業の全部譲渡をし、解散したからといつて、その後、一年以上にわたつて解散会社として存続していたような本件の場合には、被合併法人が解散と同時に消滅し、合併法人が被合併法人の一切の権利義務を承継することによつて、その人格が合併法人の人格に承継、包摂し、もつて、両人格の合一をきたしたものとはとうてい評価することはできないから、これをもつて法第七三条の七第二号の「法人の合併」に含ましめることはできない。

以上のとおり、原告の本件建物の所有権の取得は法第七三条の七第二号の「法人の合併」による不動産の取得に該当しないし、他にこれを非課税とする事由は存しない。<以下、省略>

(福永政彦 鳥越健治 長門栄吉)

別紙目録<省略>

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